複雑で多様化する現代。店内は、アンティークな家具、庭には癒し度の高い空間(パワースポット)が広がっているお店です。冬は暖炉に癒されます

隠遁生活のすすめ

タウンわたらせ第102号6月5日(土)掲載

 初孫が誕生、男子であるとの報を得,喜ぶと同時に、自分の心中の緊張する糸が大き な音を立てて「ブッ!」と切れた音を聞いた。個人として生命の継承という人生にお ける重大事をつつがなく全うし,天よりおせつかった役目はこれですべて成し遂げた 安堵感に満たされた。人間なら誰でも経験する境地ではないだろうか。
今より10年前の話でありました。その頃、私は輸入住宅の会社を経営していた。
当時は、時代がデフレに振れて激変する経済の真っ只中、社業の舵取りに四苦八苦の毎日であった。
私は昭和18年生、世間というものに出て以来、そんなに努力せずとも夜の明けるご とに売上も仕事量も増える時代を生きてきた。
それがイキナリ縮小の時代に突入した のであるが、頭では理解していても若いころより体で覚えたインフレ感覚はなかなか 消えるものではない。放漫経営でもあった。
そんな時、息子がカナダでの勉学を無事 終了し入社してきた。詳細は兎も角も、孫のお守にかまかけて社業は大分おろそかに なっていた。それでなくとも、俗事が疎ましく感ずるようになり、或る日、身代を借 金諸共、息子夫婦に投げ渡して、家内、愛犬をともない、かねてより憧れの「隠遁生 活をする!」と宣言した。
嫁は「お父さん!あたら二十歳半ばの青年にいきなりご自 分でしでかした借金と社業をまかせるとは、いくらなんでも虫が良すぎるのではあり ませんか?」「しかし、まぁ、めったにないチャンスだから、存分にやってみよう !」と息子。「兎も角も、よしなに、よしなに!」と私。
身内、周囲の者は、誰某も何某もあれだけ頑張ってやっているではないか!と叱咤激 励するのであるが、人間50を過ぎたら生き方は気分の問題となる。個人差が出て当 然であると説得した。私は若い頃より方丈記的生活、荷風の隠遁生活に憧れていた。
世の中をやや斜に見ながら自分の好きな世界に耽溺する生き方は魅力的である。自分 にはそのときのシュチュエーションからしてとにかく世を捨てて「隠棲生活」と云う ライフスタイルが今後の生き方としては適切であると確信していた。今をおいては チャンスはない!と、そのとき思ったのである。